裏切り






目を覚ましたそこは、暗くて狭くて…
身動きが取れんってほどでもないけど、動きにくい。

上…上?を見たら、何や格子みたいにシマシマの空が見える。



…ちょっと待て。
さっきは昼やなかったか?

何で空が暗くなって…?



ワケわからんことが多過ぎて、考えることすら面倒で。
でも、とりあえず…この身動きの取れんところからは抜けださなあかん。





―…あかん、動かれへん。
何やこれ、どうにか動けんやろか…っ

ジタバタと、手足を動かしてみても、軽い痛みを伴うだけで、何の効果もない。

しゃあない、誰か来るまで待ってみよか…ってか、そもそも、ココは人の来るところなんか?


考えても仕方ない、だんまりを決めた次の瞬間に、人の声と足音が近づいてきた。
そっと耳を凝らしてみると…



「へ〜、こんなところに小さなお地蔵さんが居るんですね?」

「うん、前に来た時にさ〜、こうやってお賽銭を…とうっ!」

今の、女の子の声は…って、え?

「ぁいたっ!」

“お賽銭”
その言葉を聞く限り、飛んできたんは小銭?
頭に直撃した小銭は、オレの腕と箱の隙間に落ちていって…

飛んできた方向に視線を追えば、そー…っと、覗き込んでくる人の顔が見えた。


「ぅ…わあぁぁっ!」

「っ!?」

濃い緑色の髪、オールバックっての、あの髪型は。
驚いて立ち退いたその人物の背後には、見覚えのある姿が見えた。

あぁ、想像どおりや…

「どうしたんですか、景時さん?」

「ひ、ひひひ人が居たっ!!」

えっらい驚いとるなぁ…
や、驚いたんはこっちやっちゅーねん。


「人……って!!?」

「せ、先輩!?」

…くん??」

「え!?」

覗き込んできたその人物は…予想通り、春日 望美だった。

くん…何でこんなところに居るの?」

「……えぇから、出してくれへんか?」

「あ…うん、譲くん!コレ開けれる??」

「え、あ、はい!」

望美ちゃんに、譲くん…ってことは、将臣もおるっちゅーことか?

抜け出たそこは…どうやら賽銭箱やったらしい。
シマシマの空は、それが原因か…

くん、どうしてここに…?」

「オレの方が聞きたいわ。…ここはドコ?一体…」

「ここは…源平合戦の時代、らしいよ?」

「…はぁ?源平の時代??何でそんな…」

「私たちはね…えっと」

望美ちゃんの後ろに潜んでた、小さい子の頭をポンと叩くと、オレの方を見る。
その姿は…オレをここに呼んだ、“明王”とやらの姿と似てなくもない。

じゃあ…何?

「この子。白龍に呼ばれてココに来たんだけど…」

「はく、りゅう…?」

ちょい待て、何や状況がよぅわからん…

頭を抱え、思考を整理して。
今の状況と、この場所と、何でオレがここにおるんか…と。



「あれ…じゃねぇか」

聞きなれた声。
先ほど、想像していた声。

…でも。




「…将臣ィ!?」

前に会った時と明らかに違う、ザンバラの髪。
多分重いであろう甲冑をつけたその姿。

予想を裏切るその姿に、オレは驚くことしかできへんかった。